上げ下げでは無い売買

サヤトリはビジネスとしての売買である。

片張りのような面白さは皆無だが手堅く利益を積み重ねる地味な売買であり、プロトレーダーを中心に世界中で行われている。

さて、個人で行う株式のサヤトリはいわいる「異銘柄価格差取引」であり、正常な価格差(サヤ)が異常に拡大・縮小した時に正常に戻る必然性を利用して利益をあげようという売買であり、価格差を取る為にサヤトリと呼ばれる。

しかし、一般の個人投資家が行う片張りのように上げ下げで利益が生じると言う考え方では理解出来ない上に多くの妄想じみた間違った理論が流布している為、理解しにくくなってるのは致し方ない。

それを分かり易く(?説明していこうと思う。

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サヤトリとは相場変動の収斂性を利用してローリスク・ローリターンを狙う売買である。

収斂性とは納まる所に納まる性質の事で、例えば異なる市場に上場している同じ銘柄・同じ性質を持つETFの価格差が一時的に開いても直ぐに価格が一致するような必然性を意味する。

サヤトリが最も広く一般的に行われている市場は商品先物市場であろう。
限月間価格差取引は最も一般的な手法である。
その他にも、いろいろあるが、ムダ知識なので割愛。

まとめると、
収斂性のある二つの銘柄の異常な価格差が短期間に正常に戻る必然性を利用しローリスクなポジションを建てて売買する事をサヤトリという。

以上の条件を満たさない、単なる何の根拠も無い売買はサヤトリとは言わない。

なお、スプレッド、アービトラージ、ストラドルという言い方があるが、面倒なので価格差取引と統一する事にする。

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似て非なる組み合わせはローリスクでは無い。
例えばよく理解していない人が書いたような本には株価指標などから見て、「割高な方を売り」「割安な方を買い」などという説明がある。
確かに売りと買いの両建てではあるが、リスクが高い事は誰が見ても明らかである。
株価指標などを見て売買するテクニカル分析で利益を上げてる人は確かにいる。
しかし、その片張りポジションを単純に二つ持ってるからと言ってサヤトリの最適な組み合わせとは言えないのである。
その辺は説明するまでもないであろう。
そのような組み合わせ売買は「似て非なるサヤトリ」である。

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プロやセミプロがサヤトリを好み、アマチュアが忌避するのは「株をやるからには豪快に儲けたい」という意識があるからかも知れない。
サヤトリはビジネスとしての売買である為に真面目にやってれば非常にツマラナイものである。
プロがサヤトリを好むのはそれが仕事であり、大損が許されない立場であるからである。

1.仕事としてやるからにはローリスクである事が必須となる。
2.過度な心理的負担は仕事の邪魔である。
3.自分が去った後でもやり方さえ教えておけば引き継いだ人が同じように出来るように、手法がマニュアル化されている必要がある。
4.「予測」を交えない理論的な売買であるため誰でも習得可能な技術である。
5.利益が少ないが、大損もないので小さな利益を積み重ねて行ける。
6.「大儲け」がないので面白みが無いが、片張りのような上げ下げのリスクを味わう事が無いので仕事としてやる事ができる。
7.株で成功するには才能が必要と言う人がいるが、サヤトリは誰でも出来る単純作業である為に「才能」が介在する余地が無い。

ビジネスとしての売買を理解しない人は株は当て物、騰がるか、下がるかの確率50%の売買と思い込んでる節がある。
サヤトリは玉操作を使った上げ、下げを予測しない売買である為「片張り」とは本質的に違うという事が理解出来ないようである。

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サヤトリは基本さえ身に付ければ早い上達が可能であるが、
多くの初心者は実利を得たいが為に中途半端な知識で実践し、
そして失敗すると自分の未熟さをタナに上げて、サヤトリ自体を否定してしまう。
極端に言えば
「株は儲かると言うからやってみた」
「しかし大損した」
「儲かると言うのはウソである」
「株自体が投資対象となるのはオカシイ」
「儲かってると言う話は妄想に過ぎない」
「株は金輪際やらん」
というのと同じである。
実際そのような人は大勢いるし、日本人の大多数の株式投資に対するイメージはそんなもんである。

「サヤトリは価格差が開閉すれば、正しい方法で行う限り相場環境に左右されずに利益を出せる手法である」

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理解に必要な知識

1.相場について
本来相場は上がるか、下がるかと言う単なる当て物では無く、一定の資金内で如何に売買し、そして手仕舞うかという技術である。
そもそも、売買においては「仕掛け」つまり、値動きを見、玉を建て、そして有利に動くように玉を操作し「手仕舞い」をする事が相場なのである。
相場で成功するには技法の習得こそ要であると言える。
「サヤトリ」も技術の裏付けがあってこそ利益が取れる為、その技術も基礎をしっかり習得したかどうかで差が出るのである。

2.利益の取り方
片張りの場合は安値で買い、高値で売る。あるいは高値で売り、安値で買い戻すのが基本である。
これに対して「サヤトリ」は銘柄間のサヤ(価格差)の拡大・縮小を取って利益を得る手法である。

上げ、下げで利益を取る手法を片張りと言い、両建てで玉を動かすやり方がサヤトリという事になる。
片張りは現物であれば上がれば利益、下がれば損失となり当然リスクは大きい。
しかし、最適に組み合わされた銘柄間でのサヤトリにおける両建てでは、上げ下げで利益を取るのでは無い為片張りよりもリスクは少なくなる。

どちらが良いかは個々の投資スタンスによるが、いずれにせよ相応の技術の習得が継続して利益をあげていく要となるのは言うまでも無い。

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サヤトリの用語

☆専門的な言い方はあるが、サヤの拡大、サヤの縮小、サヤの開閉と言った方が分かり易い。

 鞘(さや)相場の変動による売り値と買い値との開き、または同一時刻における銘柄間、限月間または場所間の値段の開きのことを言います。

 鞘稼ぎ(さやかせぎ)サヤを利得することで、
1.目先の相場の変動を利用して値ザヤをかせぐ場合と、
2.異なる市場間の相場を利用してその値ザヤをかせぐ場合とがあります。

 鞘変り(さやがわり)相場の開きが逆になること、すなわち、下値にあったA銘柄が上値にあったB銘柄より高くなり、また下値にあった甲市場の相場が、上値にあった乙市場より高くなったことを言います。

 鞘滑り(さやすべり)大きかったサヤが小さくなることを言います。

 鞘縮み(さやちぢみ)サヤが小さくなることで「鞘詰り(さやづまり)」とも言います。

 鞘とがめ(さやとがめ)大きく上げザヤを付けていた相場が反動的に下げ、また、下げザヤにあったものがサヤ寄せをすることを言います。

 鞘取り(さやとり)相場の変動、地域差、時間差等による売り値と買い値の開きを利用して、その間の差益を取ることを目的として行なう売買戦法を言います。

 鞘取り筋(さやとりすじ)もっぱらサヤ取りだけを目当てに売買を行なう人、または投機家もしくはその一団のことを言います。

 鞘取り屋(さやとりや)もっぱらサヤ取りだけを目的に売買する投機家のことを言います。

 鞘直し(さやなおし)逆ザヤにある相場が元にもどることを言います。

 鞘はげ(さやはげ)サヤが次第になくなることを言います。

 鞘ほれ(さやほれ)サヤの大きいのが気に入って他の材料は考えないで売買することを言います。

 鞘寄せ(さやよせ)サヤがだんだん小さくなること、すなわち、隔地間、銘柄間または限月間の値開きが縮まることを言います。

 鞘をなめる(さやをなめる)サヤのなくなることを言います。

 軸銘柄(じくめいがら)サヤトリをする上で主役となる銘柄。(比較的売買高があり、値動きが膠着せずにスムーズな動きがある銘柄である事が多い)

 脇銘柄(わきめいがら)軸銘柄の脇役となり、軸をAとして、A−B、A−C、A−Dなどの組み合わせの場合のB、C、D銘柄を言う。
 周期(しゅうき)サヤの開閉周期を言う。

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銘柄選択の基準

簡潔に言うと三つあり、うねりがあり、出来高があり、急騰・急落などの激しい動きをしないものが最適とされる。

価格面から言えば一枚建てるのに100マンを越える銘柄は動きがとりにくくなるので避けた方が良い(資金量の個人差もあるので一概には言えない)

一般的にボロ株と言われる銘柄を避けるのは言うまでも無い。

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仕掛けと手仕舞い

仕掛けと手仕舞いは原則寄り付きの成り行きで行う。
指値の場合必ず約定するとは限らないからである。
日頃から出来高の多い銘柄であれば寄り成りで買えないという事はまず無い。

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危険の避け方

サヤトリも投資手法である限り絶対安全とは言い切れない。
そこでリスクの事前管理と事後管理が必要となってくる。

事前管理

1.基本を忠実に守る
2.サヤの開閉の波は一つで区切るようにする。
3.原則としてサヤの拡大から縮小を取るようにする。
 間違ってもその両方を取ろうとしてはならない。

事後管理

1.サヤが思惑と違った方向に動いた場合サヤは無限に開く事はないので、自分の許容出来るリスクの範囲内で時期を待つ。
2.自分の許容出来るリスクの範囲内での増し玉で対処する。

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毎日の作業

場帖を付け、監視している組み合わせのサヤの動きを常にチェックする。
基本的に終値以外の情報は不要である。

サヤが目標値に達したら仕掛ける。
目標値は過去一年間程の価格差を見てサヤの最大値を見極めて判断する。
そして、サヤが目標値まで縮まったら手仕舞う。

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